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親の介護を終えた後にハッ!と気づく存在意義の喪失

『心から看る介護と認知症』のお話会は、2017年から始めていました。今回の内容は長野県で開催したときのことです。終了後の座談会で40代後半くらいの男性の経験談です。

 

親の介護を終えた後に気づく存在意義の喪失

 

1.もう死のうと思ってました

「実は僕、母親の介護を15年していて、半年前に母親が亡くなって介護が終わったんです」と。そして「それから何のために生きてるのかわからなくなって、実はもう死のうと思ってたんです」と。

講座では「親の介護をするために仕事を辞めてはいけない」という話をしていました。なぜなら、親はいつか必ず先に逝く。その後になって初めて(あれ?わたし、お金入って来ない、仕事ない、友だちもいない、パートナーもいない、やりたいこともわからない…)ということにハッと気づく時が来ます。それは自分が何のために生きているのかわからない(=自己価値の喪失)、とても危険な状態ですと伝えていました。

 

2.安易に介護に専念してしまう理由

働きながら介護をしているときは、両立するのがしんどくてしんどくて、一層のこと退職して介護に専念した方がいいかも…と思ってしまいやすい状態です。それは頑張っても頑張っても収入が上がらない、そして働きづらい人間関係でストレスを抱えている人の多いことなどが関連しています。

退職を考えているとき、どうしても目の前のしんどさに囚われてしまい、5年後か10年後かわかりませんが、親が亡くなったときのことを考えられない状況です。ですが40代50代の壮年期を介護に費やしてしまうと、その先の人生を失ってしまいます。そして自分の存在意義を見失った人は、簡単に自死に至ってしまうのです。

男性はこう言いました。「もう死のうと思っていたけど、ちょうど介護のセミナーがあるって聞いて、介護終わったけど聞きに来たんです。来て良かった、何が起こっているのか自分の状況がわかったので、もう一度頑張ります」と。

 

3.親の介護を美化するメディア

男性は介護中の話もしてくださいました。あるメディアが撮影に来たそうです。自宅で介護している場面や、デイサービスに送り出す場面、病院に連れて行くときの様子などを撮影したそうです。そのときの動画も拝見させていただきました。

その動画では「懸命に介護をする親孝行な息子」というイメージ像が作られていました。ですが男性は「そういうことが言いたかったんじゃない。介護は一人で抱えたらダメだよ、大変だよ、ということが言いたかった」と仰っていました。

今はそういった放送はかなり少なくなったと思いますが、2017年頃は子供が親の介護をすることは素晴らしいという風潮がありました。高齢者が多い社会では、そうした番組が受けていたのだろうと思います。しかしながら介護を美化することによって家族が抱える負担は、計り知れないものがあります。

 

4.介護離職数は年間10万人

厚生労働省の調査によると2022年の時点で、働きながら介護をする労働介護者数は364万人。現在400万人を越えていると言われています。そして介護離職者数は年間10万人にのぼっており、そのうち復職できているのは約4割にとどまっています。

介護離職によるブランクは、病気や子育てと違って期間が長く、復職の困難さが予想されます。また、40代50代では年齢的に雇用が厳しくなります。さらに介護者自身の健康問題等が起こり始め、人生に失望してしまう結果になり得るのです。

 

 

 

 

家族の介護・看護を理由とする離職者数等の推移/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001174913.pdf

 

5.まとめ

親の介護によって、子供が人生を失うようなことがあってはならないと思います。過剰に負担を背負わないための対策は、介護保険利用者の増加とともに推移する政府の施策を利用することも大切ですが、それよりも介護する人自身が客観的な視座を養い、ご自身の心を守っていくことが優先されるのではと思います。

 

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