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妻が寝たきりになっても利用していなかった!介護保険の落とし穴

介護相談のブースにご高齢の男性が来られました。「いや、あの、べつに大した相談ではないんですけど・・」と言いながら椅子に座り、何となく立ち寄った印象でした。

 

妻が2ヶ月寝たきりでも利用していなかった!介護保険の落とし穴

 

1.腰椎骨折で2ヶ月前から寝たきり

「実は連れが転んで腰を骨折しまして…痛がってるんですけどわしに何ができるんやろうと思いまして」と男性が話し始めました。脚立にのっていて転倒し、救急車で運んで診てもらった結果、腰椎骨折と診断されたとのことでした。

そのときは何とか歩ける状態だったのでタクシーで帰宅したものの、実際はほとんど歩けず、家のことが何もできなくなって困っていると。そして「毎日一緒に喫茶店行ってモーニング食べてたんでね…、なんかわしに出来ることあるかと思って杖とか椅子を買うてやったりしたんですけどね」ということでした。

そこまで聞いて私は『連れ』というのは古い友人だと思っていました。毎日一緒にモーニングに行けなくなって淋しいし、動けなくなった友人を何とかしてやりたい…というご相談だと思いました。しかしながらよくよく話を聞いていくと、友人ではなく同居している妻の話であることがわかってきて驚きました。

 

2.介護保険の適応であることに気づけない

病院から何とか自力で帰って来たものの、実際はトイレに行くのも男性が抱えながらどうにか行ける状態でした。お風呂に入ることも、家事をすることも出来なくなっていました。男性は「座って出来るように台所用の椅子を買うて、置いたりしたんですけど。やっぱり痛くて座ってられんって言って…」とのこと。

「ご飯はどうしてるんですか?」と問うと、「わしが毎日買い物に行って総菜買うて食べてる状態で」と話し、その状態が2ヶ月続いているとのことでした。そして外来受診はどうなっているのか問うと、当然ながら受診できておらず、ずっと痛みをこらえて過ごしているとのことでした。「では介護保険は?」と問うと「使ってない」とのことでした。

私は(これは大変だ…!)(なぜそんなことになってしまったのだろう?!)と思いました。明らかに介護保険適応で、利用しなければ危ない状態です。しかしながらずっと二人で自立した生活を送ってきたご夫婦にとって、今の状態が介護保険を利用していいのかどうかわからないのです。というより、介護保険という言葉さえ思い浮かばないのかもしれません。つまり”介護保険”という言葉は知っていても、利用の対象であることが認識できていないのです。

 

3.医療の見落とし

2ヶ月も寝たきりでずっと痛みに耐えている状態であれば、妻はきっと憔悴してきているだろうし、もしかすると脱水傾向にあるかもしれない。トイレもお風呂もスムーズに行なえていないのであれば、易感染の状態になっている恐れもあり、早急に対応する必要があると思いました。

同時に、なぜ救急搬送した病院で、自宅に帰す前に介護保険を利用しているかどうか確認しなかったのだろう?と思いました。夫婦ともに80代なので、当然利用しているものと思い込んでしまった可能性があります。しかも搬送されたときはどうにか歩行できていたため、寝たきりになることを想定出来ていなかったのかもしれません。

とはいえ、80代のご夫婦をそのまま自宅に帰してしまう危険性を察知しなければならないと思います。もし一旦入院してからの退院であれば、介護保険利用の有無を確かめたと思いますが、救命救急の場ではなかなか難しいのかもしれません。誰かがふっと気づいて声を掛けるか、再受診に来ていないと気づくことができればいいのですが、、

 

4.介護保険利用の始めの一歩

相談ブースを出展していたのは知らない地域でしたが、住所を伺い、最寄りの地域包括支援センターを調べました。するとご自宅のすぐ近くにありました。男性は「家のそばにあるのは知ってる。1回行ったこともある。でもどうしたらいいかわからんからチラシだけ持って帰ってきた」とのことでした。

その日は日曜日だったため、明日必ずそこに行くように伝えました。窓口が必ずあるから、どこの窓口でもいいので「介護保険を使いたい」と言ってくださいと伝えました。そして「ケアマネが出て来てくれると思うので、今困っていることを全部話してください」と。①②③と手順を紙に書いて渡しました。

男性は「よっしゃ、わかった。聞いてみてよかったわ。明日行ってくる」と言いながら紙をポケットに突っ込み、強い足取りで帰って行かれました。私もホッと胸を撫でおろすとともに、無事に介護保険が使えるように、そしてこの可愛らしい高齢のご夫婦が救われることを心から願いました。

 

5.まとめ

実はこうしたケースは珍しくありません。たとえば腕を骨折してギプスを巻いて帰宅し、日常生活ができないまま(何とかなるやろう…)でやり過ごしてしまうことがあります。とくに怪我などの場合は(いずれ治るだろう)と思っているため、介護保険を利用するほどではないと判断してしまいがちです。よく分からないことを敬遠してしまうのも原因の一つと考えられます。

”介護保険”という言葉は知っていても、自分がその対象者であることに気づけないパターンがあります。また介護は徐々に悪化していくため、利用に踏み切るタイミングを逃してしまいやすいことも挙げられます。そばにいる誰かが気づいて、介護保険を勧めるだけでなく、一緒に手続きをしてあげるくらいの人の存在が高齢者には必要なのだろうと思います。

中には介護保険を過剰に利用している、あるいは利用させられているケースもありますが、本当に必要な人に提供できていないという見落としがあるというのも実情です。どうすれば情報を行き届かせることができるのか、地域で考えていく必要があるかもしれません。

 

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