残される家族は幸せであってほしい/人生の最期に望むこと
自分自身が居なくなるとすれば… できれば残された家族は皆仲よく、幸せでいてくれることを願うでしょう。しかしながら死から目を背け、最期の意思決定をしなかった場合…。予想外の事態に困り果てている家族の姿を、私たちは病院で見ています。
1.意識がなくなるとき
ほとんどの人が、自分が意識を失うときのことなど考えないと思います。ですが人は死ぬ前に必ず意識を失います。特定の病気だけ意識を失うわけではなく、どの病気も遅かれ早かれ意識を失うのです。自宅で突然失うこともあるでしょう。入院中に急変することもあります。予想外に早くその時期が訪れることもあれば、最期の時の数分前に失うこともあります。
いつかはそういう時が来る、だけどどうすればいいかわからないから考えたくない。考えたところで答えは出ないし、そのうち考えよう…。そう思ってしまうのは、私たち医療者に責任の発端があります。医療者が懸命に命を救ってきたこと、それ自体は素晴らしいことかもしれませんが、他方から見れば過剰な行為になります。さまざまなメディアを通して、無意識的に「死は良くない」という認識を与えてしまっているように感じています。

2.決断を迫られる家族
救急外来での場面ー。救急室の外の廊下で、うろたえる家族に対し看護師が「どうされますか?!ご家族に決めていただかないと私たちはどうすることもできないです!」。命を救うなら一秒一刻を争うとき。別の道を選ぶのか、それとも救うのか、今ここで決めなければならない。信じられないような光景ですが、ドキュメンタリーやドラマの中の珍しいシーンではなく、どこの病院でもよく起こっている、非常に厳しい場面です。
ご本人が意思表示をしていない場合、ご家族にその判断が委ねられます。たとえご本人が意思表示をしていても、病院では最終的な決断をご家族に求めます。実はご家族だけでなく、看護師や医師にとっても大変辛い状況で、医療者もこの問題をどうにかしたいと思っています。ですが病院で死の教育をすることはあり得ませんし、また患者自身やご家族も向き合おうとしないため、この問題は解決できないまま続いています。

3.延命治療のレール
ご本人の意思表示がなく、ご家族も答えを見出せないとき。家族がこのような返事をすることが多くなります。「先生にお任せします!」あるいは「なんとかして助けてください!」と。家族が救命を望めば、医療は最後の最後まで見捨てません。命を救うことが医療者の使命ですので、全身全霊で救命します。その後、意識が戻らないまま生き続ける可能性も十分あります。80代90代の方に過酷な救命措置を講じることは私たちにとっても不本意に感じることもありますが、それが医療の役割です。
数年前に、意識を失ったままの夫の人工呼吸器を外すーという決断をされた年配夫婦のことがNHKで取り上げられました。このことは医療従事者の私たちにとってもショッキングでしたが、ようやく医療が変わる…と思った看護師が少なくありませんでした(この措置は稀で、通常は一度装着した人工呼吸器を人的に外すことはありません)。そして最近は看護師も医師も、家族の意向に耳を傾けるようになっていますが、家族が意思決定をするだけの「死」に対する知識を持っていないため堂々巡りで、実際に現場は困っているというのが現状です。

4.想定外の予後
「延命治療はしません」とおっしゃる方は増えています。ですが多くの方が想定しているのは人工呼吸器のことだと思いますが、延命は呼吸器だけではありません、ありとあらゆる医療行為が延命になります。点滴や経管栄養も延命措置の一つです。定期的に血液検査を行い、人的に栄養状態を管理すれば、何年も延命が可能になります。
病院は状態が安定すれば退院しなければなりません。呼吸状態が安定すれば気管切開となり、ご家族でも管理が可能になります。また経験栄養等もご家族で管理できるようになります。転院先を探す場合は家族が行ないますが、施設ではすぐに受け入れてもらえない現状があります。となれば自宅で介護を行うことになり、先が見えないまま24時間続く介護に、体力も時間もお金も、生活も人生まるごと費やすという状況へと変わっていきます。

5.延命という選択
とはいえ、延命が必ずしも良くないというわけではありません。こうした状況を予測せずに延命を望んでしまうことが、後に厳しい状況を招いてしまっているのであり、予測した上で延命を希望されるのであれば、それは素晴らしいことと思います。また、一日でも長く生きていてほしいという家族の願いを聞き入れて、自らの予後を家族に託すのであれば、その覚悟は家族にとって生きる望みになるでしょう。
誤解しないでいただきたいのは、判断するだけの知識を持たず医療者に託してしまうことが魂の穢れなのであって、よく考えた上で判断するならば、その答えが何であろうと間違いはありません。また、その局面に立たされたとき、意思を変更しても良いのです。ご自身とご家族で決めたことだからこそ、ご自身とご家族で変更することが可能になります。

まとめ
個が尊重される時代になり、多種多様な価値観を持つ時代になっていますね。ですが医療の認識はそう簡単に変えることができないため、やはり命を救うことに全力投球です。そして、その結果が必ずしもご本人とご家族の幸せにつながっていない光景を私たち看護師は見ています。ご家族は命を救ってくれた医療者に対し本音を言うことは無いと思いますが、そばにいる私たち看護師には、その様子から心の声が聞こえてしまうのです。
「提供する」医療から「幸せにつながる」医療へ。多くの医療者の願いです。



